射抜かれた、と思った。
「と申します。 以後お見知りおきを」
意思強そうな瞳が睫毛に縁取られ、黒髪がさらりと流れ落ちた。
べしっ!
女人にデコピンをされた。
それは強烈な印象となって余にとってのという女(ひと)を形作る。
「また朝食をお召し上がりにならなかったそうですね」
「しょ、食欲がなかったのだ」
あわてて言い繕うと、頬をむにーと抓られる。
「成長期に、これっぽちしか食べないなんて不健康です、ちゃんと食べなさい!」
「ひ、ひひゃいのだ! だって……」
言い訳無用。
わかっていても言葉を重ねてしまうのは、かまって欲しいからかもしれない。
しかし怒る姿は美しくも恐ろしい。黒曜石の瞳がきらりと輝いた。
「わ・か・り・ま・し・た・ね?」
「はい……」
しゅん、とうなだれる。
部屋の隅で膝を抱えて床にのの字を描いていると、頭にすこし体温の低い手が乗り、ぽんぽんと弾んだ。
その仕草はいつか本で読んだ、『おかあさん』みたいだと思った。『おかあさん』よい響きだ。だが年齢を考えると『お姉さん』かもしれない……うーむ 甲乙つけがたい。いや、決めた『おかあさん』だ!
だって頭をなでてくれる人がいるのは、こんなにも暖かいことだとが教えてくれた。抱っこをしてくれたのは兄上だからな。
「どうしたんですか? ニヤニヤして。 気持ち悪いですよ」
私は強くてやさしくって、ちょっぴり口の悪いが大好きなのだ。