髪をきっちりと纏め、侍官服を着込む。
そして男顔にメイクアップ。
姿見の前でくるりと一回転した。
よし、ばっちりだ!
心配の種だった胸は元の世界と同じ大きさ(Cカップ)になり、よって和製ブラのサイズもピッタリだ。
「お邪魔します」
そろりと府庫の扉を開ける。
しかしそこに期待していた顔はなかった。
「はて?」
邵可さまがいるかと思って来たのに意外だ。
主上からお茶の事聞いてないのかな?
さてどうしようかと思案し始めたそのとき、奥の室から話し声が聞こえた。
「主上? それとも李侍郎?」
邵可様が騒ぐわけがないので、必然的に二者一択となる。
ここ一月で本の虫になりつつある青年と主上を思い浮かべた。
(いや、主上も騒がないけどね)
ついでに絳攸も騒がない。
――一人ならの話だが。
騒ぎの音源を探り、扉を開いた。
そして目の前で繰り広げられるくんずれほんずれ……失礼。格闘中の静蘭と楸瑛に目を見開く。
冷静になれば、李侍郎に静蘭を紹介しようとしていたことは分かる。でも、ねぇ?
一瞬元の世界でチラ見した静×楸本を思い出したわたしは悪くないと思う。
「失礼、君は?」
藍将軍は襟元を正すと、そう尋ねた。
彼にまでバレないなんてさすがわたし!と思ったのもつかの間、静蘭が目を見開いた。
「茈武官、主上はどちらに?」
ダッシュで近寄り、「……」と言いかけた口を塞ぐ。
主上付きの女官が外朝をうろうろしていることがバレるのはまずい。
「おや、静蘭の知り合いという事は侍官かい?」
「ええ、茶太保のお召しで最近宮中に上がりました」
「へえ、初耳だ。 名前は?」
楸瑛の瞳がきらりと光った。
「わたくしは……」
「おいっ! なんだこいつらは!」
グットタイミングで絳攸の声がかかる。
(よし! 男装といたらたっぷり可愛がってあげよう)
彼をからかいたおすことを決めた。
しかし……静蘭に男装がバレるとは思わなかった。気づくとしたら楸瑛かと思っていたのに。やはり、何年も前の事とはいえ男装姿と女姿両方見られているからだろうか。
(もしかしたら、
有り得ない。
都合のいい期待はするだけ無駄だと知っている。
「お、お嬢様っ!?」
見つめる瞳を見るのも嫌で、思わず目を逸らした。
彼の視線の先にはいつでも秀麗がいる。
(そんなことはわかってる)
だけど名もない欲が時折疼き、わたしを引き裂き続ける。