涙が次から次へと溢れ出して止まらない。
わたしには鴛洵様のために泣く資格なんて無いと思っていた。泣く事はいけないことだと心のどこかで思っていたから。
鴛洵様の亡がらを前にして泣いた時、静蘭の前で涙を零した時。あれは生理的な涙に近かった。
だから長い時間自分の罪を責め、降り積もる痛みに耐えていた。
永遠に続くこの日々が贖罪だと信じていたから。
――それなのに。
「自分を哀れむでない。 お主は阿呆じゃ」
英姫様の言葉に少しだけ泣きそうになって俯いた。その時のわたしは言葉の裏に隠された彼女の愛情にすら気づかなかったけれど。
ようやくわかった。
泣かない事は強さじゃない。
逃げて、逃げて、逃げて。
それはわたしの弱さ。
たくさん泣いて、愛情も邪な想いも怒りも哀しみも、涙と一緒に流れて気がついた。
「うっく、ひっく」
「あああの大丈夫ですか?」
涙でぐちゃぐちゃになった顔で克洵さまを見上げる。随分酷い顔をしているだろう、初対面の人の前でこんなに泣くなんて生まれて始めてだ。
困ったように視線を彷徨わせている、克洵さまはとても挙動不審だったけど。
でも瞳が。
たたえる優しい光が、信じられない程鴛洵様にそっくりだったからこんなに素直に泣けたのかも知れない。
いつだって君の幸せを祈っているよ。
「あなたなんでそんなに鴛洵様に似てるんですかー!」
「ええ!?」
八つ当たり気味に泣き叫び、わたしは再びワンワンと泣き出した。
その夜久しぶりに鴛洵様の夢を見た。
それは三人で行ったピクニックの光景で、朝起きた時頬には涙の伝い落ちた痕と、心には柔らかな安らぎが満ちていた。