覆水盆に返らず

 燕青が振り返る。


「いいのか?」


 その問いかけに首を横に振った。
 貴陽での問題も方がついた。……わたしはただ隠れていただけだけど。


「いいの、主上と秀麗ちゃんには挨拶できたしね」


 結局知己とはほとんど会わずじまいだったが、狸……霄大師にも手紙を届けることが出来た。
 だからもう、いい。


「さあ、翔琳君、曜春君。 行こうか」
「うむ殿」
「はいでござる!」


 一度だけ振り返って、少し微笑み、まっすぐ前を向いて歩き始めた。










「ただいま戻りました」
「ふん、憑き物が落ちたような顔をしおって」


 過ぎてしまった時間を惜しんでも、過去は変わらない。
 ひっくり返してしまった盆の水は元に戻らない。
 でも、、、鳳珠さまと話して気がついたことがある。










「おかえり」
「ただいま」










 そして季節は流れ、秋。
 茶州が最も華やぐ秋祭りが目前にせまっていた。