それは運命だったのかもしれない。
紅葉した木の葉が世界を彩って、吐き出す息は白く染まり。
高い空には薄雲がかかって、遠い景色は赤黄に溶けあい。
茶州にも木枯らしが吹く季節がやってきていた。
わたしは街中をただひとりで歩く。……すると、
「わっ」
衝撃が走ったかと思うと逃げるスリ、いや強盗か。の姿が見えた。
わたしは内心で喝采をあげ、足を踏み出す。
しかし、
「へ……?」
次の瞬間、強盗が空を飛んだ。
いや、
違う。
吹っ飛ばされたのだ。
それを為したのは、死角から現れた紫色の髪の青年で。彼が手を突き出した。それだけの動作でこの事態が起きた。
桃色の瞳が振り返る。そして視線がかち合った瞬間、
血液が沸騰した。
ぐらりと揺れる身体、それを支えたのは州府の兵士の一人で、しかし慌てて起き上がったわたしの前から青年は忽然と姿を消していた。
□□□
強盗を確保(兵士がやった)の後執務室に戻り、椅子に腰掛けた。次いで燕青の腕を引き寄せ、だらしなく顎を乗せる。
「ってことがあったの」
「ほー」
執務室で、午前の出来事を話す。すると燕青はわたしの頭をわしゃわしゃと撫でながらてきとーな相づちを打った。
しかし悠舜様は、
「囮捜査も結構ですが、本当に気をつけてくださいよ」
と忠告した。
秋祭りが近いこの頃、破落戸の類いが日増しに増えていた。この状況を改善しないかぎり、祭りの安全な開催は難しいだろう。そしてそれは客足の低下に繋がり、結果として経済の発展を阻害する。だから鴛洵様の残した茶州の、州府の役に立ちたかった。しかしながら実際問題わたしにできることなんてお茶汲みくらいで、それはなんか悔しい。そこで今回の囮捜査のおとりを買って出たのだ。
だけど振り仰いだ悠舜様の笑顔はなんだか怖かったので、言いたいことは飲み込んで。
「はい、気をつけます」
「は悠舜には素直だよな」
当たり前だ。わたしは燕青の石頭を書類で叩いた後、椅子から立ち上がった。
さらさらさらさらさらさら。
砂の音が聞こえる。
それは大きな砂時計の刻む時。