フラッシュ、世界を灼き付けて

「帰って来たか」
「「おねーちゃん、お帰りなさーい!!」」
「よく休めたかい?」


出迎えた言葉に決然と頷いた。


「ええ」










そして秋祭り当日がやってくる。


「揚羽はまだなの!?」
「……ああ」


それは騒動から始まった。
高級感たっぷりに纏め上がられた髪と着物。化粧も普段とは雰囲気を変える様心がけてみた。
目前でむっつり腕を組んでいる飛燕も既に蒼玄王の装束に着替えており、これがよく似合う。短い黒髪に青の額宛が映え、男前度三割増って感じ。また童女(仙女の使い)の服装をしている蓮花と菫も綺麗な衣が映えて、実に可愛いらしかった。
だけど揚羽がいない。
出かけて来ると行ったきり帰って来ないのだ。
公演開始まであと四半刻。彼がいないと、わたしの二胡から音が出ない。弾くフリと共に裏で演奏してもらう予定だったのだ。
……どうしよう。
冷や汗が背中を濡らし、心臓が早鐘のように高鳴る。
その時、飛燕が組んでいた腕を解き顔をあげた。


「蓮花、菫。 蒼遙姫の独奏、弾けるか?」
「う……うん」「でも揚羽お兄ちゃんみたいには無理だよ?」
「今回はそれで良い。 お前も音を出せ。 三重奏にする」
「わたしも!?」


確かに習った。
でも所詮は付け焼き刃。しかし仰いだ彼の瞳はまっすぐに見つめていた。胸が早鐘のごとく高鳴る。


「練習、してたんだろ?」
「知ってたの?」


彼の言葉は普段にないほど小さく擦れたものだった。でもほんのり頬に熱が集まる。そして勇気が胸の奥から湧き出した。


「揚羽を悔しがらせてやれ」
「「「うん!」」」


ついに舞台の幕が切って落とされる。




















「君達、ほんと飽きないね。 俺たちへの妨害行為はいにしえの決まりで禁止されているんだろ? 十年前といい、現当主様はしつこいね」


薄暗い路地裏で、紫の髪が柔らかく揺れていた。そして細められた瞳には普段決して見せることのない冷たい光が宿っている。
対峙するのは数人の兇手。
しかし恐れる様子一つなく、

「さて……どうしようかな……」


呟いた瞬間身にまとった柔らかな雰囲気が一変し、猛禽類の鋭さへと変化を遂げた。