微睡に溶ける子守唄

穏やかな季節は過ぎ去った。
始まりは英姫様の軟禁。
あわやというところで救い出した春姫様を燕青に託し、旅の装束に身を包む。
覚悟は出来ていた。
この世界で生かしてくれた人を常闇へ封じぬ為に。


「逃げるな」


秋に出会った人のこと、決して忘れない。
教えてくれた事、無駄にはしないと誓った。
そして探索の末、第一の目的たる探し人を見つける。










「天よ、とくと見よ! 我が最高傑作白き夕餉のその果てで」


彼は本当に天才だ。
天才となんとかは紙一重という言葉の如く。話が通じない上、側にいるだけでHPがみるみる削られて行く。
見てるだけなら綺麗な紺青。
髪が闇に融ける。
鮮やかな衣装が夜風に靡き、一枚の絵画のごとき風景を形作った。
だけどそれは幻想に過ぎないのだ。


ぴーひょろりらー!!


キツい。
むしろ死ぬ。


「龍蓮様、そろそろ急がないと宿が取れませんよ。 二晩連続で野宿は遠慮したいのですが」
「そうだな。 そなたの爆裂謎の煮込み料理野草風は創作意欲はわくが、腹は膨らまない。 急ごう」
「なんですって!? 確かに三回中二回爆発しましたけど、でも一回はうまく出来たんだから!! というかわたしに作らせておいてなんて言い草!」


そんな口論を繰り広げつつ、並んで歩く。
ボロいが、料理はおいしい宿にたどり着き、鳥肉をつつく彼を眺めた。


「どうかしたか? 異界の姫君」
「その呼び方はやめてください」
「では姫」
「姫って……はぁ……はい」


龍蓮は自然な仕草でレンゲを置き、笛を手にとった。


「ちょっと待って! ここ追い出されたら野宿になるんですよ」
「わかった。 では葬送曲はやめて、みるみる食欲が出る楽しげな曲にしよう」
「どっちも駄目! ……えーと、夜中に楽器をひくのは近所迷惑だから!」
「なるほど」


彼はポンと手を打ち納得すると、笛を卓上に置いた。










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「では達者でな」
「はい、龍蓮様も。 またお会いしましょう」


そして彼と別れた。