恋は怖い。朔洵を見捨てる事に胸が痛んでも、痛んでも……。
静蘭と燕青が牢に繋がれて、七日経った。
だからわたしは覚悟を胸に、
思っていたのに。
暗い牢屋ですら輝きを失わない、月光色の髪に瞳奪われた。
決意が崩れる。
愛おしくて苦しい。
恋しくて切ない。
「……!?」
呼びかける声に、涙が溢れそうになった。
「なんだ二人とも知り合いだったのか? そういえばは貴陽で女官やってたんだよな」
「そうなんですか?」
「あの……克洵さま、はい」
震えを押さえて克洵さまの服の裾を握る。
すると牢屋から殺気が噴き出した。
「……茶克洵」
「ひえっ!?」
「おい、静蘭止めろ」
克洵さまは震えながらも彼らに武器を渡し、牢屋の鍵をあけた。すると一陣の風が頬を撫でて、
ダン!という叩き付けられる音と共に壁に向かって拘束された。
「せ、静蘭!?」
「こんな場所にいたのか」
一対の瞳が息がかかりそうなほど近く、見つめていた。
「こんな場所って。 わ、わたしがどこで働こうとあなたには関係ないでしょう」
負け惜しみを言う。
今が夜で、光の届かない牢屋の中で良かった。
顔が熱い。
心臓が高鳴って、今にも飛び出してしまいそうだ。
だけど彼の余裕のなさに違和感を感じた。万力で締め付けられるくらい強く、握られた腕に冷や汗が浮かぶ。
「どうしたの……? 静蘭変だよ」
「っ……!!」
たっぷり十秒間見つめ合う。
彼は腕を離し、克洵さまから奪う様に荷物を受け取った。
しかして三つの影が牢屋から飛び出す。
静蘭と、燕青と、わたし。
金華までの道のりを共に行くと決めた。
「克洵さま、わたしはあなたを信じています」
最後に抱きしめて、二つの影を追って駆け出した。