少し冷えた頭で、天井を見つめた。
外からは乾いた木の葉が風に舞う音。
(静蘭は、わたしのことどう思ってるの……?)
わからない。
以前考えていたほどは嫌われていないのかもしれない。でも頭を過った甘い想像に首を振った。
好かれているなんて冗談でも思えない。
原作を知っているから。
それもある。だって『彩雲国物語』は秀麗の逆ハーレムなのだから。
だけど一番の問題はそういう事じゃなくって、
(自信が持てない……)
わたしの心にあった。
例えば友人として、あるいは家族として人から愛されるのは許容できる。
でも恋愛はダメだ。
もしも嫌われたら、興味を持ってもらえなかったら、これがわたしひとりの妄想に過ぎないとしたら。
(なんてことはない、これ以上傷つきたくないだけなんだ)
苦笑した。
結論を求めれば幸福が訪れるかもしれない。
だけどこの恋が完全に破れたとき、心が砕ける。
確信があったから、それを求めることが出来なかった。
そして金華の大門を見上げた。
「着いたね」
「おう、香鈴譲ちゃんと影月はもう入ったみたいだし、急がねえとな」
「うん……香鈴……」
「嬢ちゃんを信じてやれ」
ぽん、と載せられた掌に頷いた。
「二人はすぐに金華城へ向かうでしょう?」
わたしは寄り道をする───言いかけて、袖を掴まれる。
「どこへ行くつもりだ」
「約束があるから、まずはそこへ」
感傷を押さえ、腕を払った。
見上げると何を考えているのかわからない瞳が深淵に見つめる。だから逸らして、振り向いた。
「おう、気をつけてな」
燕青が太陽みたいに笑う。
「まてっ……燕青!!」
指先が触れた。しかし腕を掴まれそうになった瞬間、燕青が留める。
だからもう振り返らず、駆け出した。