乾いた風に土埃が舞った。
さくさくさくさく。
彼はおろしたての服が汚れるのも構わず、穴を掘り続ける。
曇天が泣きそうな後ろ姿に重なった。
「長兄・草洵の亡骸は、僕一人で埋葬させていただけないでしょうか」
わたしと茶草洵はほぼ無関係と言ってよかった。数回見かけたことはあるが、それだけだ。故に彼の死に語るべき言葉を持たない。
だが克洵さまは違う。
殴られ、虐げられただけの兄だったのに、肉親の情を持っていた。
見捨てられない優しさ───そんなところが、鴛洵様と似ているのかもしれない。
「一人で棺を下ろすのは無理です。 手伝わせてください」
「それは……」
「手伝わせてください」
棺に手をかけた。
次いで息を合わせて持ち上げる。
ずしりと両腕にかかる。
───重かった。
それはきっと単純な重量ではない。
「克洵さま」
「大丈夫です」
彼は溢れかけた涙を堪えると、静かに棺を下ろし、噛みしめるように土を被せた。
音を立てて冷たい風が吹き抜ける。
枯れた木の葉が舞落ちて、墓地を悲しく飾った。
全てが終わって、
「……ありがとうございました」
深々と頭をさげた。
そして激昂する「克洵さまは強いですね」
「強くなんてありません!! もしも僕が本当に強かったらこんなことにはならなかった!!」
瞳から涙が溢れる。
男の人にまっ正面から感情をぶつけられたのは始めてだった。
この人が大好きなのだと改めて知った。
「強くなんて……ありません……」
「いいえ、今自信がなくともあなたならなれます」
「そうでしょうか……さん……朔洵兄上は何を考えているのでしょうか。 きっとろくでもないことなんですよね、でも僕は信じたいんです。 夢があるんです、大人になったら叶うんじゃないかってずっと。 でもそれは待ってるだけでは叶えられないって気がついて……僕にできるんでしょうか……僕が……僕なんかが……」
わたしは一拍間を置いて、口を開いた。
「わたしはあなたを信じます」