第六話

『死神』と出会ったのは崩壊する白虎村だった。

「おい、早く逃げないと死ぬぞ」

呼びかけ、そして視線が交差した。
舐め上げるような炎に煽られ、舞い上がった長い髪。端麗だが、人形のように意思を感じない瞳。透けるように白い肌が闇に浮かび、熱病患者が呟くように。

「あなた、死ぬわ」

それに答えると女は一瞬泣きそうな顔をして、すぐさま表情を消した。
次いで膝から崩れ落ちる。よく見てみれば彼女は裸足で、全身に浅い裂傷を負っていることがわかった。

「……毒食わば皿まで、いや意味は違ったか……」

呟いて、担ぎ上げる。

「女運が悪そうだねぇ」占い師の言葉が脳裏を過り、揚羽は嘆息した。





夢幻の果て






目を覚ますと頭上に白い天幕が見えた。
はゆっくりと瞼をあげる。そして傍らで薬草を煎じていたナギに問いかけ、ことの成り行きを知った。自分が白虎村に赤の軍が攻めて来た日より数日間、眠っていたこと。そしてその間に、『タタラ』が赤の王より白虎の宝刀を取り返したという事実。

「タタラが心配していますよ」
「……会いたくありません……」
「しかし……」
「ごめんなさい」

深々と頭を下げて、しかし心は空虚だった。
ナギはため息をつくと、

「それではあなたを助けてくださった方に、お礼を言ってはいかがですか?」
「助けてくれた?」
「ええ、揚羽。……青い衣の方です」

青い衣。
その言葉と共に、フラッシュバックのように、様々な映像が心に浮かんだ。
崩れる城。
死んだ男。
多分『タタラ』の為に死ぬ人。
そこまで思い至って、

「お会いしたいです」

言葉は口をついて出た。
そして数日後、赤の軍に掴まってしまった村人を救出するために旅立つタタラたちと別れて、 彼と共に歩き出す。

「ごめん、。ごめん……っ」

でも天幕の外で泣いてた更紗の声が耳から離れない。

「あんた、性格悪いな」
「揚羽も良いとは言えないと思います」

一陣の風が吹き、乾いた風に踊る青。
時は、終わりに向けて動き始めていた。

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2008.11.11