四道が死んだ。
揚羽を奴隷として酷使し、辱めた男の息子。
奴隷に優しかった、ご主人様。
対等で、ありたかった。
矢が四道の首筋を貫く。
「更……紗……か……?」
決戦の時、一瞬の躊躇が命取りになる。次いで首を貫き通した矢がいともたやすく四道の命を刈り取った。四道は最期に友を思い、一夜の契りを交わした妻を想った。
───揚羽はそれをただ、見ていた。
そして埃にまみれても、気高さを失わない瞳から一筋、涙が零れた。
だが、
揚羽……っ。
あるはずのない声に振り返る。
「見つけた」
それはほの暗く、しかし輝く闇。
長い髪はほつれて無残に乱れていた。
小さな肩は乱れた呼吸で揺れ、衣服も汚れて。
されど瞳は、揚羽を捕らえる。
「死んだかと思ったでしょう。生きていたのならとっとと出てきて欲しかったわ」
「ここまでどうやって……」
目を見張り、問い掛けようとして、それが無為なのに気づく。
揚羽は深く、息を吐き出した。
「肩、貸してくれ」
「……重い」
腕の中にすっぽりと収まってしまう小さな身体。
彼は額にくちびるを寄せ、
「殴るわよ?」
くちづけるのをやめた。
そして吊された男は死神と踊る。
2008.11.19