第十話

一目見て、嫌いだと思うのはひさしぶりの出来事。

「なんだ、お前」

美しいが感情の宿らない瞳が、冷たくを見つめていた。





毒の花





都に入ってすぐ、揚羽(現在は帰蝶)に親しげに声をかけて来た青年がいる。
親衛隊の隊長にして、蒼の王の側近浅葱。
彼は揚羽に声をかけると、『儀式』の前座を努めて欲しいと依頼する。その様子は実に楽しげで。
は遠巻きに眺めていた。
すると数秒、見つめた視線。何事かと揚羽に返せば、横に振られた手。
……特に用事はないらしい。
今は帰蝶の付き人だからわざわざ様子を伺っていたのに。用がないなら一々見るな、と内心で憤慨した。
しかしそれを見た浅葱は、揚羽の傍らを離れ怜悧な表情で歩み寄る。
揚羽の女だとでも思ったのか、単純に気に食わなかったのか。
そして近づいたと思った瞬間、腕を掴まれていた。
浅葱は冷たい瞳でを睨み据える。

───リコリス。

一輪の血色花が浮かぶ。
しかし気にせず見つめ返した。

「離してもらえますか?」
「……」

すると彼は小さく舌打ちし、投げ捨てるように離す。
去り行く背中。
息を吐き出し、視線を下げれば、掴まれた箇所がくっきりと痣になっていた。

 top 


リコリス=彼岸花の仲間
2008.12.17