第十八話

甘酸っぱい味が口一杯に広がった。
コタツにみかん。
外はしんしんと雪が降り続き、今日もどこかで血が流れている。

「……いいのかな」
「はい?」

さゆりさんが笑顔で振り向く。彼女は切れ長の瞳が麗しい美人で、お料理が上手で、やさしくて、まるで───。
首を横に振った。

「いえ……まだ網走から連絡は入らないのでしょうか」
「そのようですね。 心配せずともその時はちゃんとあなたにも教えると増長が申しましたでしょう」
「はい」

彼女はほかほかの湯気が上がる茶碗をコタツに置くと、ふんわりと微笑んだ。

「でも心配なのですね。 それでは一緒にお話でもしていましょうか」
「お聞きしたいことがあります。どうして私は皆さんに受け入れてもらえたのですか?しかもこんなに大事にしてもらえるなんて……っ」

痛い。
何も考えずに飲んだら舌を火傷した。今度は少し冷ましてから口に含む。

「こんなことを言っては気を悪くされるかもしれませんが……伝承です」
「伝承?」

は長いまつげをパチパチと瞬かせた。

「そうです。私も一度しか見たことがないのですが……実は長老達を含めこの地方の重鎮の大半はあなたの顔を知っています」
「顔?」
「はい、とても精巧な絵ですね。そこにさんが描かれています」

大きな瞳を見開いたまま固まる。

「先日教えていただいたお話で得心がいきました。あれは正真正銘さん自身ですね。」

特殊な加工をされた写真。
それが答えだった。
写真には祭りではしゃぐ幼い日の彼女が映っている。それは大切に保管され、この時代にまで流れ着いた。だから増長は彼女を保護したし、特別待遇も許された。
でもそれは彼や彼の妻から与えられた親切を疑う理由にはならない。やはり話して良かった。自分がこの時代に来た全貌を語って良かったとは思った。











ひかりのほうへ









「さむい……」
、あまり船の縁に寄ると危ないぞ」
「はい」

鹿角の船に同乗させてもらい、網走漁村に向かう。
更紗、いやタタラ達が刑務所から脱出した。
聞いた途端無性に揚羽に会いたくなる。感情の変化に首を傾げた。

「ほれ、これでも被っておれ」

そう言って頭にのせられた毛皮の帽子。
は照れた様に頬を赤く染めた。
そして目的地へ到る。
でも見たのは、

「えーシラス、モーホーじゃ」
「女がいるなら女がいいに決まってるだろう」

湯気を立てる裸の男たちと、

「揚羽は別だが」
「やめれ」

かなり微妙なキスシーンだった。

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2009.10.06→2010.01.10