第二十一話

純白で静謐な空間。
時は制止し空気は凍えて空虚が漂う。
かしずく男は命じられたまま、静かに報告する。
そして一人の少女に話が及んだ時、主の白い手が合図した。

「その子に興味があるわ」

白い紅を引いたくちびるが笑みの形に引き裂かれる。
彼女は子供がおもちゃを欲しがる気軽さで命じた。

「さらってきてちょうだい」
「御意」

深々と頭を垂れ、男は姿を消した。










冬、関東の空気は冷たく街の雰囲気と同じように乾いていた。
だが大異変が起こり世界は一変する。

「なんで冬のくせに湿度が高いの……?」
「もうバテたのか?」

はからかいを含んだ男の言葉に一睨みした後、増長からもらった帽子を脱いだ。大切にしまい込みながら反論をする。

「バテてない」
「意地っ張りめ」

緑の黒髪を大きな手が撫でる。
毛を逆立てた猫の威嚇に揚羽は笑った。

「何?」
「別に」

眉間にシワを寄せた。
しかし街道を抜ければ青藍、関東独立軍本部は目前に迫っている。は軽く身だしなみを整え、涼しい顔を作った。



街に入ると人影はまばらで女子供はさらに少なかった。たが人々の顔は活力で満ちている。二人は大通りをしばらく歩き、一軒の家の前で立ち止まった。
迎えたのは金髪碧眼の大男、革命軍リーダー雷蔵だった。

「揚羽!お嬢ちゃんも一緒かよく来たな」

雷蔵は豪放に笑い二人を迎えた。
揚羽は叩かれた肩を痛そうに撫でながらも微笑む。

「たいしたもてなしはできないが」

雷蔵の妻、一水はお産の為朱雀の船におり今は不在だ。
その所為もあってか、部屋は雑然とした雰囲気がある。

「ところで子供の名前は決めたのか?」
「生まれてから一水と相談して決めるつもりだ。まだ男か女かもわからないしな」
「それもそうだな。女だったら一水さん似になることを祈ってるよ」
「言ったな」

楽しそうな応酬には見とがめられない程度に首をひねった。
雷蔵にそっくりな女の子……金髪碧眼の可能性は低い。でも茶髪で色素薄めの瞳にはなるかもしれない。加えて父親譲りの大柄な女の子。
───茶々みたいな感じ?
当人に聞かれたら張り倒されること確実の思案をしながら無表情を保った。
そうした雑談の後、揚羽は本題を切り出す。

「三者同盟を結びたい」
「関東、タタラ、そして東北か?」
「そうだ」

切れ長の瞳を猛禽類のごとく細め、四本指を立てる。

「朱雀、白虎、青龍、玄武。ついに四本の宝刀が揃った。時が満ちた、そう思わないか?」

雷蔵が腕を組んだ。
口を開きかけ、

「私は思いませんね」

遮ったのは、冷たい声音。
振り向くと一人の見知らぬ男がドアの前にたたずんでいた。
年に似合わぬ白髪混じりの髪、細身の身体。けれど目に宿る光は強い。

「我等には今すぐ三者同盟を結ぶメリットがありません」

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2011.03.26