その日彼女は書類の山に撃沈していた。
呻きながら、よどみなく会計処理を続ける音に助けを求める。
「芳桂くーん」
「仕事なら手伝いませんよ」
「うぅ、いじめ」
「正当な主張です」
椿は死人のごとく起き上がり、潤んだ瞳で見つめた。
「わかんない」
「考えなさい」
「考えてもわからなかったんだよー」
再び机につっぷして、しくしく泣きまねをはじめる。「頭のいい人にはわたしの気持ちなんてわからないんだ」こぼす姿に芳桂はため息をついた。
「どこがわからないんですか?」
「芳桂君、好き!」
目を輝かせて起き上がった彼女に、彼はこめかみをひくつかせた。
少し抜けているものの、椿は普段異性にこんなことを言わない。だと言うのに芳桂に対する態度は無防備そのもの。普通の男なら喜ぶところなのかもしれない。
だが彼は違った。
整い過ぎた容姿、女神の造形。美女と見まごうばかりの男。
自らの容姿を嫌う彼は、
「まさかとは思いますが、私を同性扱いしていませんよね?」
生徒会長の温度が下がった。
しかし、
「ええ!? 芳桂君女の子だったの?」
「そんなわけないでしょう」
椿の全開な阿呆面を見て碇を鎮めた。
天然はこれだから手に負えない。思いつつ、口元には薄らとした笑みを浮かべた。
「さあ、馬車馬の様に働きなさい」
「うー……じゃあその前に髪結んで」
「手のかかる人ですね」
お気に入りの簪を差し出した。
そんな二人の日常。
「あのーお二人とも、僕をお忘れじゃないんですかね。 さっきからずっといるんですけど」
書記のつぶやきは夕日に溶けて消えた。
2009-06-28
楊芳桂:さようならを言えるひと「願った夢は、」のオリキャラさん。
娘娘さん好きだー!!
管理人の趣味に走りました。それにしてもそろそろ関係図説明を作った方がいいですかね……。
written by Nogiku.