当主様に恋して



弟、登場!

本日も晴天なり。
彼女は上機嫌に鼻歌を歌いながら階段を駆け下りた。
そして、

「いただきまーす」

ぱくり。
俺が焼いたパンに齧りつく。次いで目玉焼きに醤油を落とし、サラダにドレッシングをかけた。この人ホント、細い身体のどこに入るのかと思うほどよく食べる。
食べ終わると歯を磨き髪を整え制服に着替えた。

「姉ちゃん、口の周りに歯磨き粉付いてる」
「えー!?」

騒々しく鞄から鏡を取りだし、俺はそれを呆れ顔で眺めている。
ここまで、我が家の日常。

「なんか今日気合い入ってない? ついに……なんだっけ……三双萩さん? と付き合えたとか」
「くふっ……げほ、ごほごほ」

吐血した。
イヤしてないけど、うちの姉ちゃんリアクションが派手だからそんな感じに見えた。そして抗議の声を上げようとした瞬間、携帯がメールの着信音を響かせる。
開いて、急にそわそわし始めた姉。

「青の髪留めなんてあったかな……」

直前までの会話を忘れて部屋へ駆け戻った後ろ姿に、

「なんだかね。 へー、三双萩さんって青好きなんだ」

開いたままの携帯には、『HANRIファンクラブ限定メールマガジン!』の文字。一瞥し、頬をぽりぽりと掻く。そして予想通りに髪飾りの色をわざわざ変えた姉に生暖かい視線を送ったのだった。










放課後。
正門前ではちょっとした騒ぎが起きていた。

「ちょっと、あの子格好良くない?」
「イケメンだし」
「あれって隣町男子校の制服だよね、もしかして彼女待ち……?」

が、ぶっちゃけどーでもいい。俺面食いだから最低姉ちゃんくらいの美人じゃないと無理だし。
交わされる会話を完全に無視した。次いで目的の人物を見つけ、声をかける。

「三双萩さんですか?」
「そうだけど、なんか用?」

……でけぇ。
何この人?見た感じ190くらいあるかも。
姉が隠し持つ、掌サイズの写真ではわからない事実がそこにあった。
顔も整ってるし、雰囲気あるし、これなら姉ちゃんと並んでも様になるかもな。でも、

「あんた、女何人いるの?」
「は?」
「だからさ、彼女何人いるんだって聞いてるんだよ」

うちの姉は惚れる相手を間違ったとしか思えない。
確かに顔形は合格点、背も高いし、物腰も鋭い。その上頭も悪くなさそうだ。だがそれを差し引いてすらこの男を認めない。
───姉ちゃんを泣かせるやつは誰であろうと許さん!
鋭く睨むと、視線が勝ち合った。
全身が総毛立つ。猛獣に睨まれた気分。
思わず拳を握りしめた時、

「すーくん!?」

影が割り込んだ。

「なんでこんなところにいるのよ?」
「……迎えにきた」
「え? だって学校逆じゃない」

アホみたいな顔で俺を見つめ、間を空けてから背後の男に気づく。

「み、三双萩くん」
「……なんだ、照木の彼氏か?」

にやにや笑う。
次いで「弟!」と即座に否定した姉に生返事。
でもな。笑う一瞬前すごく不満そうな顔した。何?実はこいつも気があるってオチ?へー、ほー。
あっそう。

「俺用事思い出したから先帰る。 今日は三双萩さんに送ってもらってよ」
「そ、そんなこと……」
「いいぞ、帰るか」
「え、ええ!? ……いいの?」

小鳥のように首を傾げた姿を横目に、歩き出す。
そして小さく微笑んだ。
ま、姉ちゃん鈍いから全然気がついてないんだろうけど。
精々がんばれば?







2009-07-25

弟登場!周防(すおう)って名前です。が、しかしよく考えてみたら周坊と被るというか見分けが付かないのであだ名で読んでみました「すーくん」
書けば書く程彼がシスコンになっていくのが楽しくもあり、恐ろしくもありました。高校一年のイケメンツンデレ弟です。こんな弟欲しくありません、ツンデレって設定だけ私の実在する弟さんとかけてみました。
作中に出て来るHANRIファンクラブは、先日のチャットで盛り上がった組織の一つです。娘娘ファンクラブや惇明先生ファンクラブも当然ながら存在します。そのうちそちらのネタも書きたいな、なんて思いつつ。

そしてついに鳥乃さんがやってくださいました!私の熱い、熱い、暑苦しい要望を受け、やってくださいました!!「青い春の中に佇む」ふふふふ、笑いが止まりません。みなさんもこの感動を是非!!

written by Nogiku.