当主様に恋して



文化祭編前編

しくしくしくしく。
最近この出だしが多い気がする。
でも、視線よりうずたかく積まれた書類の数々。修羅の形相で睨む彼。
もう、ダメ。
机に突っ伏した。

「お腹すいたー眠いよー頭痛いよー」
「その口、縫い合わせてあげましょうか?」
「芳桂くんのばかぁ 」

子供みたいに手足をバタバタさせる。
文化祭直前の生徒会は戦争の如く忙しかった。どんなにがんばっても終わらない、紙とのにらめっこはもう飽きた。しかし、上目づかいに伺えば冷ややな瞳に睨まれる。

「仕方ありませんね。 さぼり魔のアホ会長を探して来なさい」
「うう、鬼。 こんな精神状態で三双萩君とその彼女さんなんか見たら衝動的に屋上から飛び降りちゃう」
「その心配はありません」

パタン、冊子の閉じる音がした。

「今時期だけは彼女を作らない様に厳命しましたので、おそらく大丈夫でしょう」
「へ? ……いないの?」
「いませんね。 仕事をしていただかないと困りますから」

言葉と共に、ふわふわの綿菓子に包まれている気分がした。
疲れがどこかへ飛んで行く。

「なんですかその緩み切ったツラは」
「だって……えへへ」

頬が緩む。
次いで勢いよく立ち上がった。

「いってきまーす!」

飽きれ切った表情の芳桂君とあたふたしている周君に手を振り、スキップで生徒会室を飛び出した。

「……まったく。 周坊、彼女の分の仕事をやっておきなさい」
「そ、そんなー!!」

背後から悲壮な悲鳴が聞こえた気がするけど、多分気のせい♪









「三双萩君……寝てる?」

屋上の給水塔に上がると、案の定彼がいた。
気持ち良さそうに寝ている。
思わずとっくり見つめた。長いまつげ、整った顔立ち、適度に筋肉質な身体。恥ずかしくて正面切ってなかなか見れないので、うれし恥ずかしでも見ちゃう。
やっぱり、カッコいいななんて思いながら。
髪とか男の人なのに綺麗で、触りたくなる。……触っちゃだめかな。ダメだよね?……ダメかな?えええい、思い切って毛先をさわ……やっぱ無理。
そんな葛藤をしていたら、

「照木、パンツ見えてる」
「三双萩君起きて、ぱ、キャー!」

突然かけられた声に悲鳴をあげた。

「な、な、な、な!?」
「おいっ」

狼狽して後ずさる。
なにかを踏み外す感触がした。

───え?

落下感が全身を覆う。

「っ!!」

走馬灯が見えた。
あれは、三双萩君と始めて出会った日?
だけど、

「お前ってホント目が離せないやつ」
「……ごめんなさい」
「ん?」
「えっと……ありがとう」

えーと、えーと。
わたしが給水塔から落ちかけて、三双萩君が助けてくれて……その……この体勢はいつ解除されるのでしょうか?
抱きしめる腕に頭が混乱した。

「三双萩君?」
「なんだ」

顔が近いです。
しかもなんであなたそんなに楽しそうなんですか。

「照木、顔真っ赤」

にやっと笑う顔が憎い。

「馬鹿、三双萩君のバカー!!」
「ホント可愛いな」

大きな掌が髪を撫でる。それはうっとりするほど気持ち良くって、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
結局、芳桂君が怒りながら探しにくるまで延々と屋上で三双萩君にからかわれ続けたのだった。
三双萩君のばか!







2009-10-04

周坊の扱いが酷い(笑)
鳥乃さんごめんなさい。文化祭編前半でした。それにしてもこの話のヒロインはよく落ちますね。彩雲国で努力して養った運動神経が皆無なので、7割増どじっこです。
そしてマガリさん宅が、コラボ別視点を始めて下さいました!みなさまも是非!!

written by Nogiku.