お気楽道中、問答無用!

ある日両親が言った。

「……ごめんね」

そして人買いに連れられ、生まれ育った村を出る。
……嫌だ。
こんなはずではなかった。
なんで私だけ。
言葉はぐるぐると回るけど、腕はしっかりと掴まれ、逃げる事はできない。
その時風の様に現れた人。
流れる黒髪。流麗な剣技。
彼は人買いをぶちのめすと、私の手を引いて言った。

「君を家に帰してあげる」

涼やかな目元。整った容姿。
その時思った。
王子様が現れたんだ、って。
だけど彼は魔女のものだった。

「うっさいガキね。 さっさと家の場所を教えなさい」

彼女は見た事もない綺麗な扇を振り、眉をひそめる。
次いで嘲笑。

「きたない小娘」

羞恥に顔が赤く染まった。
助けてくれたのは王子様。

!!」
「うっさいわね」

彼らは口論をしながらも、村へ返してくれた。
驚き泣く両親、そして兄。
魔女はイヤなやつだったけど、王子様は違う。
きっとこんな貧相な村から救い出して、幸せの魔法をかけてくれる。
そう思っていた。
だけど、

「温泉水を売る方法を考えましょう」
「あれは確実に高く売れる。 全商連には話つけておいてあげるから……そうね、あんた責任者になりなさい」

言って兄を指名した。
え?
この展開はなに?
奇跡の水……?最初は水を売って、徐々に村を貴族向けの温泉地にしろ?
この人は何を言っているの?
頭がおかしいんじゃないかしら。
しかし最初は半信半疑だった村長達も彼女が自らの身許を証明し、後ろ盾になることを約束すると、目を輝かせた。

「何言ってるの? この村で商売をするつもり?」
「当然でしょ。 そうね儲かったら上納金は……これくらいかしら?」
「ば……!!」

馬鹿じゃないの。
もう何がなんだかわからない。
私さえ……私さえ幸せになればそれでいいのに!!
でも、

「あんたみたいな小娘は村が発展していくのをぼーと眺めて、雀の涙みたいな分け前もらって、ひっそり暮らしていくのがお似合いよ」

言葉に頭の奥が沸騰する。
瞬間、王子様の幻想が頭から飛んだ。

「ふざけないで! 絶対見返してやる!!」

すると魔女は扇を広げ、高笑いをした。
やれるもんならやってみれば?
数日後、全ての手はずを整えると彼らは村から去った。
私は働いた。書けなかった字も覚え、全商連の人から帳簿も教わった。
働いて、働いて、働いて。
村は豊かになった。そして私は幻想ではない本物の幸せを手に入れた。