彼女は鮮やかな手腕で、村の貧困を救ってみせた。
最初に目を付けたのは村人の平均年齢の高さ。つまり老人が多い。それはこういう村ではとても珍しいことだ。
調べると、病人が少ない事実にたどり着く。
しかして僕たちは村の裏手にある温泉を見つけた。
「もしかして……」
湯を口に含み、難しい顔で膝をつく。
僕は細い顎を伝い落ちる雫を眺めながら、「お湯になりたい…」と考えていた。次いで彼女は僕の腹部を華麗にけり上げ、結論を出す。
「これ、多分奇跡の水だ」
踞る背中をグリグリ踏みしめながら、「活性水素…」と独り言を呟いた。
以降の行動力は迅速で。特別製の木簡を駆使し、家の権力を振りかざして、あっという間に全商連の長と話をつけてしまった。
まず水を売れ。
後に富裕層向けの温泉地として観光地化しろ。
それがの指示だった。
□□□
貧富の差は埋まらない。
旅を始めてからの口から溢れる様になった言葉だ。
「でも賢帝が立てば」
あるいは能吏が政治を先導すれば。
しかし彼女は、あっさり言い切る。
「無理じゃない?」
しょせん全ての人を救えるわけがない。一人の人間ができることなどたかがしれている。
だが、
「ちっとはましになるシステムを作ることはできなくも、ない」
まっすぐと見つめる瞳。
僕は雷に打たれた。
全身に甘い痺れが走る。
でも幻想は打ち破られるのだ。
邪悪に微笑む横顔。
「当然私に利益が来る様にするけどね」
照れ隠しではなく、本気で言っていると知っている。
だけど……と思った。
しかして寒村は急成長を遂げ、周辺地域は疎か貴族の噂話にまでのぼる、大きな存在感を示すようになる。
嘆くことしか知らなかった少女は村の発展に貢献し、学んだ手法を生かして周辺地域から貧困を打ち払うまでに成長した。そしてこの世代以降、地域の女の子に憧れの女性は?と聞くと紅秀麗より先に彼女の名があがるようになる。