いつか革命する世界で

ワカメはミネラルたっぷりですが、プレイボーイは煮ても焼いても食えません

人影まばらな剣道場をのぞくと、ワカメ先輩が落ち込んでいた。
千種さんの姿は見えない。
先ほど遠くから黄色い悲鳴が聞こえたから、女の子たちに囲まれてどこか行ったのだろう。
確認して、道場に足を踏み入れた。

「慰めはいらん」
「じゃあ罵倒はいかがですか、負け犬先輩」
「なんだと!?」
「自分で慰めるなって言ったんじゃないですか」

剣呑な顔を眺めながら、ニコニコ笑う。
すると肩を落としていた彼は突如笑い出した。

「ははははははははは!!」

ワカメ、壊れた!?
ネジでも飛んだのかと思い、しゃがんで覗き込む。
すると勢いよく引かれた腕、すんでのところで転倒せずにすんだ。

「俺は三条院に勝つ、天上ウテナにも次は負けん!」
「へぇ」
「そして転校生、お前もだ! 俺を殴ったこと絶対に後悔させてやるからな」

言って払う様に私の手を離した。
次いで颯爽と立ち上がる。

「西園寺恭一、二度は負けん!」

ザザーン。
背後に『東映』マークが見えた。
思わず拍手。道化だし、ワカメだし、女の子殴るし、変な奴だと思っていたけれど、ほんの少し見直した。





□□□





しかして放課後。
体操着購入および、千種さんとのお茶をする為に。街へ向けて歩いていた。
鳳学園は小高い丘の上にあるので、少々距離がある。とは言え、道は舗装されてるしまだ昼間。
だが問題は予想外の場所から現れた。

「やあ」

軟派な声。
振り向けば、背景キラキラの王子様系の人。
深紅の髪が風に流れ、白い歯が光る。切れ長の双眸が笑みを象り、手をとった。

「街へ降りるのは初めてだろう。このナイトにエスコートさせていただけませんか」

自信たっぷりの顔に蹴りを入れてやったら、さぞかし気持ちいいだろう。

「結構です」

しかし我慢して、断る。
降り注ぐ笑顔。

「じゃあ行こうか」
「……無視かよ」

諦めて彼の後ろを歩く。
似非紳士風に問われる質問は無視。
だって桐生冬芽は信用ならない。なぜなら、

「君は俺が嫌いなの?」
「はい、だってうちの父にそっくりなんですもん……正しく言うなら父のほんのわずかに存在する良い部分全部なくしたのが会長って感じです」
「酷い言い様だね」
「好きでもないのに好意があるフリをするのは酷くないんですか?」
「おやおや」

口論にもならない問答を続けている内、街が見えた。
一礼し、背を向ける。
その時、腕を掴まれた。

「樹璃と互角だったんだってね。ミッキーには勝ったそうじゃないか」
「……私は犯人じゃないですよ」
「信じるよ」

流麗な瞳が覗き込む。
抱き寄せた腕に嫌悪感を感じた。

「うそを……」

堪忍袋がキレそうになった瞬間、

「この、泥棒猫!!」

罵声に振り向いた。