いつか革命する世界で

ヤンヤンデレデレヤンデレデレ

鋭い平手が飛び来る。
だから私は後方に飛び退き、

「生徒会長バリアー!」
「おっと、失礼」

女ったらしを突き飛ばした。
すると彼はひらりと平手を躱し、たたらを踏みかけた千種さんを抱き留める。みるみるうちに赤く染まった彼女の頬。
えー、趣味悪っ。
内心を顔に思い切り出し、千種さんの手を引いた。
平手打ちされそうになったこと?何それ私に関係ない。

「行こう」
「君は何を言ってるんだ?」
「一緒にお茶する約束したじゃない」
「……そうだったね」

鬼女の能面が驚きに染まり、次いで困惑へと変化した。眺めてにっこり笑うと混迷はさらに深まる。
後方で腕組みをする気配がして、肩が揺れた。
エロヴォイスが囁く。

「つれないね」
「お見送りありがとうございました。ごきげんよう」

邪悪な笑顔で振り返ると、彼は肩をすくめた。
これと言ってリアクションを返さず背中を向ける。
そして千種さんの手を引いたまま町中へ向かった。思いついて、

「ところで千種さんは体操着買った?」
「いや、君は?」
「まだ。じゃあ一緒に買いに行こう」

微笑むと、口元を少し引きつらせ頷いた。そうして向かう派手な外装の用品店。学園といいこの街といい派手好きしか住めない決まりでもあるのだろうか。そういった建築基準法があるとか?
入店して体操着その他を選ぶ。
……それにしても泥棒猫ねえ、どういう意味かしら。
適当に入った喫茶店で紅茶とクッキーをほおばりながら考えた。

、こぼしてるよ」
「あらら」

思考に沈んでいたら千種さんに口元をナプキンで拭われた。周りの視線が痛い。これは敵視だな。彼女イケメンだし。女にばっかりもてるのも大変だろうな。実際私も前の学校では後輩の女子にモテモテでちょっと参ったし。彼女の容姿ではもっと苦労していることだろう。

「ありがとう」

微笑むと酷く複雑そうな顔で笑い返した。
ずっとそうだ。突然怒ったり、かと思えば優しくなったり。私を見るとき瞳の奥が郷愁と憎悪の狭間で揺れる。これではまるで昔別れた恋人、あるいはそれを奪った親友みたいだ。

「ところで」

耳障り良い声が呼びかける。

「探偵ごっこはもう終わり?」

名探偵を呼びましたか。
ふんわりとした芳香ただよう紅茶を口に含み、飲み下す。

「いいえ」
「ふぅん……じゃあまだ調べてるんだ?」
「まあね」

答えるとカチリ、目前で何かが切り替わる音がした。
雰囲気に闇が混じる。
口元に細い指を当てて何かを考えている。どんな反応でも返せるよう軽く腰を浮かせた。
しかし双方が行動に移すより早く、喫茶店の扉が開き気の強そうな美少女が飛び込んでくる。この街にもやはり美人しかいないらしい。美形の呪いでもかかってんのか気持ち悪い。
かくして美少女は私を完全に無視した。

「三条院さん、こんなところにいたの?」
「もう待ち合わせの時間だったのか、ごめんね」
「いいえそんな……あれ、この人は?」
「例の東館に越してきた転入生さ」
「ふうんあんたが」

サファイヤブルーの髪と瞳を持つ少女は小さいくせに上から目線が上手だった。千種さんの肩にこれ見よがしに手をかけながら蔑みのこもった視線で見下す。
そっちの趣味の人?

「そういうあんたは誰?」

あえて喧嘩を売る。
ガチレズだと思われたら迷惑だが、なんか面白そうだし。
案の定青髪美少女の顔色が変わった。

「なんですって!」

千種さんが割って入る。

「薫梢、鳳学園の一年さ」
「薫……ああミキミキミッキーの兄弟?」
「あんた幹を変な名前で呼ばないでくれる!?」
「やだぴょーん」
「ふざけてんじゃないわよっ!」

梢ちゃんがヤンデレ目になる。来るか!テーブルクロスを引いて応戦しようとした瞬間、

「二人とも止めなよ」

仲裁された。
梢ちゃんは舌打ちすると、「三条院さん、怖かった」とわざとらしく抱きついた。
二人はこれからデートだそうだ。
ガチなのか。
しかも去り際変な質問をされた。

「君にはエスコートしてくれる王子様はいないの?」
「王子様(笑)ですか?」
「……ああ」
「そういうの信じてないので」
「そう」

ウテナといい千種さんといいこの学園はメルヘン思考の人が多いよね。